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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)919号 判決 1965年3月11日

上告人

本間芳治

右訴訟代理人

鈴木右平

被上告人

奥山軍三

右訴訟代理人

溝越清一郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木右平の上告理由について。

所論は、当事者の意思表示のみによつては代物弁済の効力は生じないとの見解に立つて、本件建物の所有権は未だ被上告人に移転していないと主張するが、不動産所有権の譲渡を以てする代物弁済による債務消滅の効果は、移転登記の完了する迄生じないにせよ、そのことは、所有権移転の効果が代物弁済予約の完結の意思表示によつて生ずることを妨げるものではない。しかして、原審の事実認定は挙示の証拠によつて肯認し得、その認定の事実関係の下において、本件不動産の所有権が予約完結の意思表示により移転登記の完了前既に被上告人に移転したとした原審の判断は正当であり、その他、原審の判断の過程には何等の違法はない。所論は畢竟、独自の見解に立つて原判決を非難するか、または原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用し得ない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠)

上告代理人鈴木右平の上告理由

<第一点、第三点省略>

第二点 (理由不備、法令違反)

一、甲第二号証(借用証)の特約に「契約不履行の場合は抵当権設定物件を以つて代物弁済する事」と記載してあり、又甲第一、第四号証(登記簿謄本)甲区六附壱にて「原因昭和参拾六年拾壱月弐壱弐日停止条件附代物弁済契約」と記載し、夫々異る文言を以つて代物弁済契約の内容を表示していることが明らかである。

右に対し原判決は第一審同様漫然と後者の意味に解していること記録上明らかである。

尚右については上告人は全部之えを否認しおること前叙の通りである。

二、其処で惟うに「代物弁済とは債務者の負担する給付に代え他の給付を為すことに依りて債務を消滅せしめることを内容とする実践的契約にして該給付の完了したるとき其の効力を生ずるものとす」と曰われている処から当事者の意思表示だけでは代物弁済の効力は生せざるものと解すべきである。

処で仮に甲第二号証の特約記載の「抵当権設定物件を以つて代物弁済する事」と契約が成立したとしても右契約だけでは本件建物の所有権が被上告人に移転したとは解すべきでなく、所有権を移転すべき義務が生じたと解すべきである。

従つて第一審主文(原審の認容)の「被告は原告に対し右建物を明渡せ」との判決は之れ明らかに法令違反あるものと解せざるを得ぬ。

蓋し被上告人に於て未だ本件建物について所有権を取得していないからである。

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